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8月の読書
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向田理髪店 / 奥田英朗

北海道、過疎の進む元炭鉱町。
町に2軒だけになってしまった理髪店を営む、50代の康彦の目線で語られる
小さな町で起こる悲喜こもごも。
心配性だが、思慮深く口が固い康彦のもとには、深刻さは大なり小なり、
様々な町の人々の相談がもちかけられる。
狭い町ならではの人間関係の濃さ。
うまくいかない時には、それが閉塞感となることも。
しかし 町民同士の団結力は強く、互いを労る親い関係に救われることもたくさんある。
就職難、高齢少子、後継者不足、問題山積の過疎の町。
それをユーモアを交えたあたたかい目線で描くさすがの奥田節。
すいすい読めて、1本の映画を観たよう。



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マチネの終わりに / 平野啓一郎

才能溢れるギタリスト蒔野と、才色兼備のジャーナリスト洋子。
38と40の出会い。
初めて言葉を交わした時から、互いに唯一無二の相手だと強く引かれ合うふたり。
若いとは言えない年代、自己を省みる冷静さ、
相手を思いやっての慎重さも持ち合わせた大人同士の恋。
仕事や人間関係、背負っているものの多さ重さゆえ、恋に突き進めない。
すべてを捨て、駆け寄れない、すれ違うもどかしさ。
世界情勢や文学、歴史、宗教、音楽、映画。
多岐にわたる造詣の深さや引用が、この大人の恋愛に深みと広がりを持たせる。
ラスト、美しかった。

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こちらあみ子 / 今村夏子

こうあるべき、とか、こういうことはしてはいけない、とか。
そういうものさし自体を持っていない、それが あみ子。
遠巻きに笑う子、目をそらす子、あみ子は周りになじめない。

あみ子の視点で描かれる世界は、まっすぐで時に暴力的でさえある。
彼女の言動に困惑、嫌悪し、傷つき、寄り添うことを諦めてしまう人たち。
傷つけるつもりもさらにはわかってほしいとも思ってはいないだろうあみ子。
あみ子があみ子でいることで、疲弊し崩壊していく家族。
淡々と語られることで、どうしようもない相容れなさが、ただただ読者の目の前にさらされる。

こちらあみ子、応答せよ!
こちらあみ子、応答せよ!

おもちゃのトランシーバーに叫び続けるあみ子。
このシーンは凄かった。心をぎゅーっと捕まれる。
切ないのは見ているこちら側だけで、あみ子はそこにただそのまんまの存在でいるだけ。
それが、なによりも迫ってきた。
まだまだ読んでみたい作家さん!

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かのこちゃんとマドレーヌ夫人 / 万城目学

小学1年生になった かのこちゃんと、飼い犬 玄三郎、ある日迷い込んできた雌猫マドレーヌ。
ひとりと2匹を中心に描かれる、かのこちゃんの日常、愛と友情の物語。
こやつはできる!ととフンケーの友になった すずちゃん。
ふたりがゆっくりと絆を深める過程。
鼻てふてふ、茶柱?! ござるござるの応酬、大人のお茶会。
くすくす むふふ、なんとも微笑ましい。
かのこちゃんの目に映る世界のいきいきとした描写に心が躍った。

玄三郎とマドレーヌ夫人の夫婦愛、かのことすずの友情、
何度もうるうる、最後は涙が止まらず。
思い合う愛しい気持ちの美しさ。その連鎖が起こす、優しい奇跡。

心に残る1冊に また出会えた喜び。
子供の頃、窓ぎわのトットちゃんを初めて読んだときに感じた、わくわくと切なさを思い出しました。
読めて本当によかった!でござる。
おすすめしてくれたフォロワーさんに感謝!

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友罪 / 薬丸岳

少年犯罪者のその後の生き方、を問う作品。
14歳で残虐な殺人を犯し、医療少年院で更生プログラムを受け、社会へ戻ってきた鈴木。
同じ日に町工場で働くことになった、同い年の益田との出会い。
新たに関係を結んだ相手、友達が、恋人が、同僚が、元凶悪犯罪者だったら…。
その時受け入れるのかそうでないのか。

償いと更生、贖罪のあり方。
人が背負っている十字架は目には見えない。
罪と人格とを切り離すことができるのか、
犯した罪が重ければ重いほど、その命題は難しくなる。

医療少年院で 少年の更生のため、母親役として尽力した弥生。
加害少年と真摯に向き合うあまりに、自身の息子との関係を破綻させてしまう。
一方、事件後、加害少年の親は少年の前から姿を消してしまう。

どの立場で読んでも 苦しく難しい。
子供が道を踏み外したとき、犯罪の加害者になったとき。
親としてどうすればいいのか。被害者にどう償えばいいのか。
特に、親としての向き合い方を突きつけられ、考えさせられるばかり。
by chocolat-au-choco | 2016-08-31 09:21 | 読書メモ


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