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10月の読書②
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かなわない /植本一子

写真家、植本一子さんの数年に渡る日記と散文集。
読売新聞の書評で気になっていた本。

若くしてラッパーの石田さんと結婚、ほどなく娘をふたりもうける。
序盤、育児中の閉塞感、時々憎んでしまうくらい娘たちが疎ましくなる瞬間を、率直に淡々とつづる彼女。
自分の望む理想の家族、理想の母になれない苦しみ。

仕事の再開、夜の外出、開放感、家族への罪悪感、そして恋。
離婚を受け入れない夫との坦々とした日々も書く。
彼女の内面の不安定さが加速し、恋人との修羅場、夫のとの静かな対峙と息を詰めるように読んだ。

読まずにはいられない。正直に書く、自分を客観視し、表現することの凄み。
子供を愛せない、それは 自分自身を愛せていないから。
愛されなかった少女の自分が、彼女の中でざわざわと葛藤する。
母親との関係性にまつわる、安田先生との対話は、これだけで読む価値あり。
かなわない、に込められた思い。
自分も周りも傷つけることはある意味必至なのに、すごい本だと思う。圧倒されっぱなし。



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Aではない君と / 薬丸岳

離婚の後、元妻と暮らしていた14歳の息子が、突然、同級生の死体遺棄の容疑者になり逮捕された。
誰の問いかけにも、かたくなに口を閉ざす翼。
本当に 同級生を殺害したのか?
とりかえしがつかない罪と生きている限り続いていく贖罪、
親として罪を犯してしまった子とどうやって対峙していくのか。

年老いた父がつぶやいた
物事のよし悪しとは別に、子供がどうしてそんなことをしたのかを考えるのが親だ。

その言葉に押され、法的な付添人となり、ふたりきりの接見で息子と対峙し、
真実を受け止めようと決心する父親。

息子がたったひとりで抱えていた苦しみ、そして見放された孤独と絶望。
SOSに気がついてやれなかった親の負い目。

ぼくはあいつに心を殺されたんだ。
それでも殺しちゃいけなかったの?
心とからだと、どっちを殺したほうが悪いの?

なぜ命を奪ってはならないのか。生涯かけて背負い続ける十字架。

ぼくは優斗だけじゃなくて、優斗を大切にしていた人たちの心も殺したんだね…。

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図書室で暮らしたい / 辻村深月

本が好きで好きでたまらない少女時代、自らも中二病だったという思春期、
本や漫画、アニメとの出会い、そしてノートに書き溜め、友達に読んでもらった小説たち。
辻村深月という名前のエピソードや、影響された作家さんたちとの交流。
心に残る取材先でのエピソード。
それを掬い取る感性、優しいまなざし、本当に物語りフィクションを愛しているんだなぁ。
ああ、作品はもちろん人としても辻村さんという作家さんが好きだ!と強く。
働く母としての視点には共感多々。

図書館肝試し、母子手帳にできること、なりたい大人、
が特にいつまでも心に残った。

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イヤシノウタ / 吉本ばなな

ばななさんの言葉がやっぱり好きだ。
肩の力を抜いていいんだよ、懐かしい空気に包まれるよう。

肉親の死、お父様との想い出など。
特にとても身近に心強く感じた、二年かかった という更年期とのばななさんの向き合い方。
自分の体や心と向き合い、まぁ、いいか!と居心地良さを求め、
こんなに楽になるなんて!との先輩の言葉に、50歳のスタートもなんだか怖くなくなった。笑

彼女が一貫して伝え続けていること。
心の自由、各々が持って生まれた色を発揮して、その才能を活かせるように、自分自身を生きることの実践。
ひとりひとりの幸せと、補い合い 認めあう世の中。
そんな世の中になれば最強だ。彼女の言葉の光のかけらをこれからも受け取っていきたい。

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猿の見る夢 / 桐野夏生

大手銀行から出向したアパレル会社役員59歳。
妻と息子二人、10年来の愛人も。
食えない男、薄井。名前どおりの、薄い男、軽薄そのもの。
事なかれ主義だけど、損か得かは懸命に考える。

浅はか過ぎる言動に、イライラを通り越し、男ってしょーもない!と
嘆息も越え、笑ってしまう。
誰だって、自分がかわいいに決まっている。ここまで露骨に自分に正直に生きている男も珍しい。

母の介護と死に発した妹との深い溝と確執、財産分与での揉め事などリアル!

家も家族もあるからこそ、男はひとりになりたいのだ。
そうわかったときには遅かった。本当の独居老人に成り下がる転落は致し方ないのだろう。
溜飲を下げた読者も多いのかな。

いつの間にか、家に入り込んでくる夢見占いのおばさん(長峰)は本当に不気味。

せ猿、礼なきことは してはいけないのです。

桐野さん、ドロドロもいいけど、シニカルでコミカルなこんなおじさんの物語も面白い!
旦那や父親だったら絶対耐えられないけど!(笑)


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老後の資金がありません / 垣谷美雨

娘のハデ婚費用、舅の葬儀費用と、見栄を張りたい気持ちから、
老後にと貯めていた貯金が、あっという間に目減りし、不安でならないパート主婦篤子。
そのパートも切られ、なんと夫までリストラ。姑への送金回避にと、同居を宣言。
踏んだり蹴ったり。次々と襲いかかるピンチと
持つべきものはお金!突きつけられる現実。
子供の独立、老親の介護、葬儀、墓、遺産、身につまされることばかり。
どこまでも憂鬱になりそうなところを、思わぬキャラだった姑に振り回されながらも、
開き直っていく篤子にエールを送りたくなる明るいラストに、ほっ。おもしろくて一気読み。
by chocolat-au-choco | 2016-10-30 09:46 | 読書メモ


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