なでし子物語 / 伊吹有喜 立海と耀子。 旧家の御曹司と使用人の孫娘、育った環境があまりにも違うふたり。 大人の事情で孤独に耐え、過酷な環境で生きるふたりが出会い、心を通わせていく。 自分を守るため、本能的に心の糸を遮断することを覚えた幼いふたりが哀しい。 でも、人の世は捨てたものじゃない。 人生の道しるべを 誠実に生きていく様を、身を持って または言葉で伝えてくれる、 あたたかい大人たちとの出会い。 家庭教師青井の心に残る言葉の数々、胸が何度も熱くなった。 どうして と自分を責めない。 どうしたら と前に進もうとする。 あなたが自分のことをどれだけ、グズだのバカだの言っても、 身体は何も言わずに、あなたのことを支えている。 毎朝、新しくなっているのよ。 自立、かおをあげていきること。 自律、うつくしくいきること。 八月の六日間 / 北村薫 40歳間近 文芸誌編集部で働くわたし。 彼女の登山の記録。 日記のような独白が ここちいい。 ひとりで山に登る。 日常の雑事に折り合いをつけ、自分の力量に合わせ、山やルートを選び 装備を整える。 そのひとつひとつが登山の楽しみ。 山で行き交う人たちとその会話、山小屋で広げる本との出会い。 浮かんでは消える想い…。 去った恋人、もう会えない親友。 それを包み込む、この世のものとは思えない眺め。 思い通りの道を行けないことがあっても、ああ、今がいい。 わたしであることがいい。 こんな大きな風景の中に、ただ一人の人間であるわたし。 それが、頼りなくもまた愛しい。 小泉今日子 書評集 2005~15、 10年間に渡る、小泉今日子さんの読売新聞掲載の書評集。 飾らない言葉たち、彼女の人柄が滲み出る表現。 本との付き合い方のお手本、何より読みたい本が増えて メモメモ。 やっぱり読書っていいなぁと。 自分も読んだ本があると、今日子女史の感想と照らし合わせる楽しさも。 ひとりの女性として、我が身の先々を思うところある、38から48歳の10年間。 彼女の内面の変化、選ぶ本と捉え方。 好ましくそして近しく感じられた。 並み居る書評委員たちとの交流にも興味津々。 読みたい本リストが一気に増えました! 生きることは恥ずかしいことなのだ。 わたしは今日も元気に生きている。 政と源 / 三浦しをん 政と源、共に戦後を生きてきた、73歳の幼馴染み同士。 性格も生き方も正反対のふたり、なんて魅力的なじいさんコンビ! 長すぎる付き合いあればこその、そっけないやり取り、 子供っぽく意地を張り合う姿に笑ってしまう。 僻みっぽいけど憎めない国政、 豪快で磊落 人情に厚い源二郎。 次々に起こる大なり小なりの事件、下町人情物語。 まさに じいさんエンターテイメント。 下町、つまみ簪、水路をゆく舟、景色が浮かぶよう。 つまみ簪(かんざし)職人の源。 美しい伝統工芸を初めて知った。 なにごとに関しても『堅実』、なんてことはありえねえよ。 ゴールも正解もないから いいんじゃねえか。 俺たちが見られなかったとしても、来年も再来年も桜は咲くさ。 それでいいじゃねえか。 桜の下で待っている / 彩瀬まる それぞれの事情を抱えながら、東北新幹線で北上する人々の短編集。 宇都宮、郡山、仙台、新花巻…。 モッコウバラ、からたち、菜の花、ハクモクレン、そして桜。 美しい花のある風景と、家族と故郷、人の心の機微。 見たことのない景色に思いを馳せる。 家族であるからこその、あたたかさと煩わしさ。 口に出せない想い、もう会えない人たち。 新幹線の車内販売員として働く、さくらの最終章が心に沁みる。 夫婦、家族というものに、どこか自信がなく育ってきた、姉さくらと弟の会話が印象深い。 姉ちゃんは、どこかに帰りたいの? 自分がどこかに帰るより、居心地よくするから、誰かに帰ってきてほしいな。 私がみつけてきたきれいなものを、一緒に見て、面白がってほしい。 そういうのがやってみたくて、家族がほしいのかも。 子育てはもう卒業します / 垣谷美雨 70年代後半、地方からそれぞれに上京、四年制大学で出会った3人。 実家暮らしではない女性の就職難、結婚出産、夫の収入、義家族との同居、子供の受験就職…。 3人それぞれの視点で描かれる18歳から55歳まで。 女の選択、後悔と葛藤の繰り返し。 等身大の悩みは、リアル。 その時々の三人三様、打ち明けられない胸の痛みも抱えつつ、励まし合いながら、いつしか晩年へ。 子育てはもう卒業します! こうあるべきだ、こうあってほしい、拘ることから卒業できれば、一区切りなのかな。 親離れ 子離れ、難しい。 50歳を過ぎてもまだまだ成長過程。 これから見えてくることもある。 モンローが死んだ日 / 小池真理子 還暦間近、愛する伴侶に先立たれた鏡子。 夫を失った喪失感で、精神のバランスを崩してしまう。 出会った精神科医高橋に救われ、静かな日常を取り戻した鏡子。 信頼と共に芽生えた淡い思慕は、ふたりの距離を近づけて…。 突然消えた 精神科医。 あの男は本当に存在したのだろうか。 もう59、まだ59。 孤独と諦め、淡い期待と浮き立つ心。 人生終盤の恋慕は切なく、時に狂気を孕む。 そんな女心を、きめ細かく描ける筆力にため息。
by chocolat-au-choco
| 2016-03-29 14:07
| 読書メモ
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