色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年 / 村上春樹 高校時代の男女5人組、調和のとれた美しき共同体。 二十歳の夏、突然一方的に絶縁を言い渡され愕然とするつくる。 絶望に声をなくし、死の淵に立つ。 理由を問いただすことさえできずひたすらに内省し苦しんだ年月。 沙羅との出会いで、16年前に見ようとしなかったこと、と対峙するため、 かつての親友たちに会いに行く。 人生の亡命者改め、巡礼に出たつくる。 色彩(自分らしさ)とは、人との関わり方、信じること、見なければならないもの。 どこまでも繊細で、ゆらゆらと漂うつくるの心象。 魅力的で謎多き登場人物たち。好きな文章がここかしこに。 限定された目的は人生を簡潔にする 人の心と人の心は調和だけで、結びついているのではない。 それはむしろ傷と傷によって、結びついているのだ。 悲痛な叫びを含まない静けさはなく、 血を地面に流さない赦しはなく、 痛切な喪失を通り抜けない受容はない。 世界一ありふれた答え /谷川直子 傷つき一歩も先に進めなくなり、精神科の門をくぐった男と女。 夫に捨てられた、承認欲求が強すぎるまゆこと、 右手が動かなくなったピアニスト、トキオの出会い。 互いに寄りかかり、自問自答を重ねては、死の淵を漂う。 闇夜に響く拙いアラベスク。 まゆこがたどり着いた、世界一ありふれた答えとは。 夜明け前の美しい青、そんな優しいラスト。 世界は私を必要としていない。 世界は誰も必要としていないのだ。 なんという大きくてあたたかな拒絶。 ある意味、私は他者であり、他者は私なのだ。 だからこは愛しく思えて共感できる。 あひる / 今村夏子 ある日、貰われてきたあひる。 のりたま、と呼びかわいがる夫婦。 のりたま目当てに集まってくる子供たちとの賑やかな時間。 なんだろう、平易な文章で淡々と進んでいくのにやめられない。 悪い予感を胸にページをめくり、ほっとしたりじりじりしたり。 うまく言い表せない、日常に潜むざわざわや もやもや、心をひっかかれるような感覚。 それをこんな風に小説にできるなんて。もっと読みたい。
by chocolat-au-choco
| 2016-12-18 21:03
| 読書メモ
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